その名に反し“生”の宝庫
冬のデスバレー国立公園
- 2018.03.28
- カリフォルニア/California
デスバレー国立公園(Death Valley National Park)といえば、夏は最高で50度前後まで気温が上がる大自然の公園。「死の谷」という名の通り、灼熱地獄となった道路を車で走ればオーバーヒートしてしまうこともある、まさに死と隣り合わせの谷だ。
そんな人々に恐れの念を抱かせるデスバレーだが、冬は気温が下がり、とても過ごしやすい。そしてこの限られたベストシーズンに訪れると、「Death」という名からは想像できないほど“生”に溢れた光景が広がるのをご存知だろうか。
カリフォルニア州の中東部に位置するこの公園の広さは、約1万3700平方キロメートル。アラスカ州を除いて、アメリカでもっとも大きな国立公園といわれている。園内には広大な平原と果てしなく連なる岩山が広がり、砂丘や塩の平原、浸食によってできた峡谷など、多種多様な景色が望める。
北アメリカ一海抜が低いバッド・ウォーター
塩の平原が広がるバッド・ウォーター(Badwater Basin)は、北アメリカでもっとも海抜が低い地点とされる場所。その高さはマイナス86メートル。実は海面下の世界だ。かつては湖が広がっていたこの場所は何万年もかけて水が蒸発し、現在は結晶化した塩の平原となっている。
夏の間は周囲を取り巻く空気をはじめ、地面も灼熱地獄のように熱くなるので外に出るにも死の危険を感じるほど。しかし、冬の間なら思う存分この美しく不思議な景色を堪能できるのが嬉しい。
駐車場を降りてすぐの場所は多くの来場者の足で踏み固められてしまっているが、奥へ奥へと進んでいくと、その美しい全貌が明らかとなる。自然の力で蒸発した湖底には塩の結晶が描く不思議な模様が広がり、なんとも幻想的な光景だ。年間を通してほとんど雨が降らないデスバレーだが、冬の間には激しい嵐が訪れることもあり、後にはここに大きな池ができるという。
魔界のような光景が広がるデビルズ・ゴルフコース
デビルズ・ゴルフコース(Devil’s Golf Course)は、塩の岩が雨風によって徐々に侵食されて鋭く尖り、魔界のような恐ろしい光景へと変貌した大地。切り立った塩の岩が足元を埋め尽くしており、「こんなところでは悪魔しかゴルフできないのではないか」との見た目からこの名称がついたという。
ここに来たら、地面に顔を近づけてよーく耳を澄ましてみよう。昼間、太陽が昇って地面の気温が上昇してくると、塩の結晶が割れたりヒビが入ったりしてパキッ、ピシッと音が鳴るのだ。まるで地面全体が生きていて、成長し続けているかのよう。
色とりどりの山が連なるアーティスト・ドライブ
デスバレーの中でもひと際鮮やかな景色が見られるのがここ、アーティスト・ドライブ(Artist’s Drive)。一方通行のドライブウェイとなっている道だ。大自然の中を縫うようにくねくねと進む道路沿いには、自然のものとは思えない色とりどりの山々が連なる。
ピンク、黄金色、緑、ラベンダーなどカラフルな山肌を作り出しているのは、山に含まれる鉄やアルミニウムなどの鉱物。これらの鉱物が酸化することによって変色し、このように色とりどりの堆積物の丘陵ができあがったのだ。中ほどにはアーティスト・パレット(Artist’s Palette)と呼ばれるビュー・ポイントがあり、目の前にはまるで画家のパレットのようにさまざまな色彩が、陽光を反射して鮮やかに彩る山がそびえている。
アーティスト・ドライブ沿いの道は、とにかくカーブが多い。道路すれすれまで迫る岩山の間を運転するのはスリルがあり、まるでアトラクションに乗っているような気分になってくる。あまりスピードを出すとヒヤッとする場面も多々あるので、安全運転で楽しもう。
日の出、日の入りの絶景スポット、ザブリスキー・ポイント
日の出時や日の入り時に過ごす場所といえば、ザブリスキー・ポイント(Zabriskie Point)。園内でも特に人気のスポットで、早朝や夕暮れ時には多くの観光客が集まる。真っ赤に染まる空、陽光に照らされて赤やピンク、黄金色に彩られた岩山、そして奥に広がる盆地と連峰の青い影。
それぞれの光景がひとつに相まって作り出される景観は、美しいの一言に尽きる。滞在中は日の出・日の入り時間を事前に調べておこう。この必見ポイントはお見逃しのないように!
冬の間だけ生命に溢れるソルト・クリーク
冬に訪れたならぜひ立ち寄っていただきたいのが、ソルト・クリーク(Salt Creek)と呼ばれるトレイルスポット。実はここ、11月〜翌5月の間だけ小川が出現する。一体どこから流れてきたのか、このうえなく不思議だ。陽光をキラキラと反射する小川では、さらに2〜4月ごろになると小さな魚が元気に泳ぐ姿が見られる。パップフィッシュというメダカ科の小魚だそうだ。
デスバレーといえば水も植物も何もない場所をイメージしがちだが、実はそこかしこで植物が生えており野生動物も生息しているうえ、期間限定だが水も湧く。冬の間はまさに“生”の谷と化すのだ。
このほかにももっとも高みから園内を眺望できるダンテス・ビュー(Dantes View)や、園内の一部にだけ砂丘が広がるメスキート・フラット・サンド・デューン(Mesquite Flat Sand Dunes)など、見どころは数多い。
冬に訪れる魅力のもうひとつは、ハイキングができること。デスバレーには、ゴールデン・キャニオン(Golden Canyon)やモザイク・キャニオン(Mosaic Canyon)といった人気のトレイルロードがある。ここでしか見ることのできないユニークな地形が眼前に広がる光景は、ぜひ体験していただきたい。また、モザイク・キャニオンでは運がよければ 野生のビッグホーン・シープを見られるかもしれない。冬の過ごしやすい気候とはいえ、辺りは乾燥しているので水分補給にはしっかり気を配ろう。
旅行雑誌、情報誌のフリー編集者兼ライター・フォトグラファー。人種や文化の違いに興味があり、世界中の国々を旅行しては、その地で見た美しい風景や人々、おもしろいと感じたものを写真に収める。世界遺産検定1級所持。
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