ロサンゼルスの下品なヤシの木
- 2019.12.05
- Life -アメリカ生活 日々のぼやき-
みなさん、ロサンゼルスと聞くと何を思い浮かべるだろうか。映画界の中心地ハリウッド、年中温暖な気候、美しいビーチとサンセット、ユニバーサルスタジオ、ルート66……。それぞれ想像するものは異なるはずだ。エンターテインメントの町ロサンゼルスには、夢と希望が溢れたさまざまな魅力が詰まっている。
私がロサンゼルスに来る前に思い浮かべていたのは、ヤシの木とビーチ。これこそロサンゼルスだろう、と期待を胸にドキドキ、ワクワクしながら渡米したのを今でもはっきりと覚えている。
ロサンゼルスに到着してすぐの頃、ビーチに行って想像通りの美しさに感動した。ヤシの並木道が延々と続き、道沿いにはおしゃれなサーファーショップや雑貨屋などが並び、ビーチには映画『ラ・ラ・ランド』で見た桟橋が海の沿岸に向かって伸びている。まさに私が思い描いていたロサンゼルスだ!とワクワクが止まらなかった。
ところが、である。ロサンゼルスでの生活が始まってひと月ほど経った頃、私はすでにヤシの木の姿にうんざりし始めていた。いかんせん、ロサンゼルスはどこもかしこもヤシの木が茂っている。ビーチ沿いはもちろんのこと、ダウンタウンにも山の上にも、ビバリーヒルズにも、海岸線であれ内陸であれ関係なく生えている。もちろん、我が家の目の前にも生えている。ロサンゼルスに住んでいれば、ヤシの木を見ない日はない。
最初は「これぞロサンゼルス!」とはしゃいでいたが、私の興奮は思った以上に早く冷めてしまった。そして冷静になってみれば、たかがヤシの木になぜそんなに興奮していたのかと不思議な気持ちになってくる。
一体なぜ、私の気持ちはこんなにも冷めきってしまったのか。その理由を自分なりに分析してみた。
まず、ヤシの木の量が多すぎる。どこへ行ってもヤシ、ヤシ、ヤシ。これだけ毎日ヤシを見せつけられたら誰だってうんざりするだろう。「LAではとにかくヤシの木を植えておけばいいんだろう」と言わんばかりの、その安売りした下品な感じがなんだか嫌なのだ。このくどさに毒されて、人は(少なくとも私は)常緑樹や針葉樹、色とりどりの花に癒やしを求め始める。
そしてもう一つ、決定的な理由がある。それはヤシの木の品種だ。ロサンゼルスにいらっしゃる方は、ヤシの木の姿形をよくよく見て欲しい。ここに生えているヤシの木にはいくつか種類があるのだが、ほとんどのものがマッチ棒のように貧弱なヤシの木なのだ。
樹高は天に届かんばかりに高いのだが、幹が細すぎて、上に伸びるにつれて大きく弧を描いたように曲がっている。そのうち強めの風でも吹いたらポッキリ折れてしまうのではないかと気が気ではない。このもやしっ子のような細いヤシの木が立ち並んだ通りに出くわした時には、なんとも貧相な雰囲気でやりきれない気分になって来る。私はもっと、幹のどっしりとした健康的なヤシの木が好きなのだ。
もちろん、時にはがたいの良いヤシの木を見かけることもある。そういう時は、「おお、これこれ」と思う。しかし、並木道に使われるヤシの木は大概がひょろひょろとしたやつらなのだ。これらのヤシの木を植えた人は、つくづくセンスが悪いと思う。
そんなこんなで渡米1カ月目あたりからは、私にとってヤシの木は不快の対象以外の何者でもなくなった。そしてLA生活が1年ほど経った頃には、もはやヤシの木が眼中になくなり、どうでもよくなってしまった。
それが原因というわけではまったくもってないのだが、少し前に引っ越しをした。今住んでいるエリアは、ロサンゼルスのダウンタウンよりも南側の郊外だ。なんと、懸念だったヤシの木があまり生えていない。むしろ、マツやヤナギなどの植物のほうが多い。そして、誰かがこまめに手入れをしてくれているのであろう、色とりどりの美しい花々もそこかしこに咲いている。
こうして私は、ずっと引っかかっていたモヤモヤが晴れ、心穏やかな日々を取り戻した。
旅行雑誌、情報誌のフリー編集者兼ライター・フォトグラファー。人種や文化の違いに興味があり、世界中の国々を旅行しては、その地で見た美しい風景や人々、おもしろいと感じたものを写真に収める。世界遺産検定1級所持。
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