アメリカのホスピタリティって何だ
- 2020.11.01
- Life -アメリカ生活 日々のぼやき-
「おもてなし」という言葉があるように、日本はホスピタリティに長けた国だ。日本のホスピタリティは世界一だと言われることもあり、近年では海外のビジネスオーナーがおもてなし文化を学びに日本へやってくるケースもあるらしい。
かたやアメリカで生活をしていると、「この国のホスピタリティってなんぞや?」と思うことがままある。日本で生まれ育った私はどうしても日々の生活の質を比較してしまうので、「日本だったらこうなのに」「なんでアメリカは……」などとついつい不満を感じてしまうのだ。
そんな中でも特にあり得ないと思ったのが、DMVの対応。DMVとは日本でいう運転免許センターのようなところだ。免許取得のための試験や免許の更新、自動車の車両登録などはすべてここで行う。
ここがとにかく、クズの塊のような場所なのだ。
まず、スタッフの対応がひどい。これまでに免許取得、更新などで何度か訪れているが、いつ何時どんな状況で訪れても、揃い揃ってすべてのスタッフのやる気がない。対応中、にこりともせず気怠げな低めの声で淡々と事務的な対応を進め、あからさまにやる気のなさを猛烈にアピールしてくる。ある日の窓口の女性なんて、「だるいよね」と私に同意を求めてきたくらいだ。
愛想を振りまけとまでは言わないが、ゆうても州政府の機関なのだから礼儀正しい対応をするべきではないのか。やる気のなさを隠そうともしない威風堂々とした佇まい。呆れを通り越してあっぱれとすら思う。
あれは忘れもしない、私がアメリカに来て初めて免許を取得した時のことだ。アメリカでは筆記試験と実技試験に合格すると、紙ペラ1枚の暫定的な免許証が発行される。その後、本人確認が完了すると正式な免許証が送られてくるのである。だが、待てど暮らせど正式な免許証が届かず、ついに暫定免許の有効期限が切れる寸前になったので私はDMVに出向いた。
受付で状況を話すと、紙と番号を渡されて呼ばれるまで待てと言われた。3時間ほど待ってようやく番号が呼ばれ窓口へ行くと、おじいちゃんのスタッフが立っていた。申請書は記入したかと聞かれたので、いや、暫定免許が切れそうなのでどうなっているか確認をしに来ただけなのだと説明した。ところが、おじいちゃんは申請書を記入しろの一点張り。私は当時まだ英語に自信がなかった。新規申請に来たわけではないので申請書の記入は不要のはずだということ、受付では記入しろとは言われていないことなどを、私は拙い英語でなんとか伝えようとした。しかし、おじいちゃんは「記入していないなら受付に戻れ」という。いやいや、それはおかしいではないかと再度説明しようとすると、「この話はもう終わった。もう話すことはない。帰れ」と言われてしまった。
私が何を説明しようとしてももはや聞く耳を持たないおじいちゃんに、私の中では怒りが煮えくりかえった。こっちは3時間も待たされたのだ。そのうえで十分な説明もさせてもらえずに帰れとは失礼ではないか。あなたの仕事は相手の要望を聞いてそれにきちんと応えることではないのか。怒鳴り声を上げたい気持ちだったが結局何も言い返すことができず、受付から再度やり直すのもバカバカしいのでその日は帰ることにした。おじいちゃんにも腹が立ったが、何も言い返せなかった自分の不甲斐なさにも情けなくなった。後日、電話でDMVに問い合わせをしたら対応してもらえ、無事に正式な免許を得ることができた。
今後DMVでは必要最低限のやり取りで済ませようと心に誓った1件だった。
また別の時には、修理業者の無能さに呆れたこともある。私が住んでいる家の冷蔵庫が壊れた時のことだ。オーナーに連絡をして、修理業者に予約を入れてもらった。当日やってきた業者さんは冷蔵庫を一通り点検し、「今日は必要な部品を持ってきていないから後日改めて修理に来る」と言って帰って行った。
後日、改めて訪れた業者さんは冷蔵庫をあれこれいじった後、「部品が足りなかったので後日また来る」と言った。その後日、再度現れた業者さんは冷蔵庫をいじった後、「部品が合わないのでまた後日来る」と言う。いやいや。何回来れば修理が終わるのか。
結局、業者が我が家に修理に来たのは通算で10回以上。毎回来るたびに「あれが足りない」「これが足りない」と、修理が終わらないのである。そして未だ冷蔵庫は直っていない。きっと永遠に修理は完了しないのだろう。
普通、というか日本人的な観点からいえば、最初に点検した時にすべての問題と修理が必要な部分、必要な工具を洗い出して本番に臨むのが常識というものではないのか。しかし彼らには、日本の常識と思われる概念は通用しない。私の常識を彼らの常識として押し付けてはいけない。それは十分肝に命じているつもりだが、しかしここまで手際が悪いと、うーむ、と唸らざるを得ない。どうしたものか。
それに比べて、日本のホスピタリティたるや。特にアメリカで生活してから日本に一時帰国すると、そのおもてなしスキルの高さに感心してしまう。
たとえば空港。手荷物引取所でベルトコンベアから流れてくるスーツケースは、下ろしやすいようにと必ず空港のスタッフが持ち手を外側に向くようきれいに並べてくれる。また、買い物に行く際のレジではお釣りのお札を1枚1枚めくって数える細やかさ。さらに、雨の日には買ったものが濡れないようにと紙袋の上にビニールを施してくれる心遣い。
こういう細やかな気遣いを当たり前のようにできる日本のホスピタリティは、本当に素晴らしいと思う。
一応弁明しておくと、アメリカが悪いと言っているわけではない。アメリカにもホスピタリティはあるのだ。たとえばレストランやサロンなどのサービス業では、サーバーのホスピタリティ度合いによって感謝のチップを払う。日本よりもビジネスライクなアメリカでは、ホスピタリティも金で買うということだ。当然、DMVのようなチップをもらえない場所ではホスピタリティを提供する必要はないのである。ある意味シンプルかつ理にかなってはいる。
日本という国では一体全体どうしておもてなしの心がここまで発展したのか、心底不思議だ。
旅行雑誌、情報誌のフリー編集者兼ライター・フォトグラファー。人種や文化の違いに興味があり、世界中の国々を旅行しては、その地で見た美しい風景や人々、おもしろいと感じたものを写真に収める。世界遺産検定1級所持。
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