アメリカ在住の日本語バイリンガルのこどもたちに脱帽
- 2020.11.08
- Life -アメリカ生活 日々のぼやき-
英語と日本語のバイリンガル教育を受けているこどもたちは本当にすごいと思う。これまではバイリンガルになることがどんなに大変なことかをまったく知らなかった分、今は彼らの苦労を知って心から尊敬している。
とはいえ、私にはこどもがいるわけではなく親としてバイリンガル教育を施した経験もないので、本当の大変さの半分も理解できていないかもしれない。それでも、アメリカに来て知った事実は心底彼らに尊敬の念を抱かせた。
世の大半の人々は、なんらかの理由でアメリカで生活している日本人のこどもは、日本語も英語も自然と話せるようになると思っているだろう。日本人の両親を持つこども然り、また両親の片方が日本人、片方がアメリカ人のこども然り。私も、ずっとそう思っていた。しかし、実際のところはそうではないらしい。
アメリカで生活していく以上、生活の基本はすべて英語だ。現地のプリスクール(日本でいう幼稚園・保育園)に通い、現地の小学校・中学校・高校に通うのだから当たり前だろう。そうして英語は自然と体に染みつき、ネイティブレベルの語学力が身に付く。
しかし、日本語は違う。もちろん両親が日本人であれば家庭では日本語をしゃべるだろうが、家で話す内容などたかが知れている。おはよう、おやすみ、ありがとう、などの基本的な日本語は覚えたとしても、ネイティブの日本語を身につけるにはしっかりと学ばなければならないのだ。
アメリカの日本語学校で働いている知人から、こんな話を聞いたことがある。英語は強弱がはっきりしており発音がリズミカルだから、こどもは耳から入れて覚えやすい。一方、日本語の発音は基本的に音が一定でリズムがないので、なかなか頭に入りにくい。一度覚えたとしても、学習を維持していかないと忘れやすい言語なのだそうだ。
バイリンガルというものは、アメリカに住んでいるからといって自然と身につくものではない。また、幼児期と小学期にしっかりした日本語を覚えたとしても、中学・高校で日本語を学ぶことを止めてしまったらこどもはいとも簡単に日本語を忘れてしまう。小学3・4年生になると日本語の勉強についていけなくなる子がちらほらと出てきて、そのまま挫折してしまうという話もよく聞く。ちなみに、バイリンガルどころかどちらの言語も中途半端になってしまった者を皮肉の意味で「ゼロリンガル」というらしい。日本語も英語もネイティブ並みにきれいに話せるようになるためには、親が信念を持って長期的に教育しなければならないのだ。
そして、こどもの教育方針を左右するのは必然的に母親の判断となることが多い。実際アメリカに住む日本人・日系人家族のうち、日本人の母とアメリカ人の父を持つこどもは上手にバイリンガルとなるケースをよく聞き、アメリカ人の母と日本人の父を持つこどもは途中で挫折してしまうという話を聞くことが多いように思う。もちろん、全体的に見ればいずれのパターンでの成功例も失敗例もあるので断言はできないし、断言するつもりもない。しかし、こどもの教育は母親のサポートしだいという点は往々にしてある。
アメリカに住むようになって、日本人のご家庭の話を聞く機会が多くあるのだが、話を聞くたびに「すごいなぁ」と感心してしまう。
きちんとしたバイリンガルに育てるため、こどもたちは平日は現地校の学校に通ってアメリカの一般的な教育を受け、土曜には日本語学校や補習校で日本の学校の勉強をする。塾、補習校、日本語学校など、どの機関で教育を受けるかによってプログラムは異なるだろうが、よく耳にするのが、土曜の学校では日本の1週間分の授業をすべて勉強するという話だ。そのうえ膨大な宿題も出る。もちろん、平日は現地校に通っている彼らには現地校の宿題も課せられている。
彼らは月曜から金曜までは現地校の授業を受け、土曜は日本語の授業を受け、日曜には現地校と日本語の学校の宿題を一気にやるのである。私が小学生の頃は、平日は学校でのらりくらりと授業を受け、放課後はいそいそと友達と遊び、土日はぐうたらと遊んで過ごしていた。もちろん、日本で暮らしていた私の話である。しかし、アメリカ在住のこどもたちは平日はおろか土曜も1日勉強、しかも私が1週間かけて学んでいた内容を1日ですべて学ぶのだ。そして日曜は宿題。1週7日間、勉強、勉強、勉強……鬼のように勉強しているのである。
こどもなのだから、学校が終われば友達と外で思いっきり遊びたいだろう。中学・高校になれば部活もしたいだろうし、友達と最近はやりの話題で盛り上がりたいだろう。週末に補習校に通っていたために、習い事や部活の試合に出られないこともあったという話もよく聞く。でも、これくらい徹底しなければきれいなバイリンガルにはなれないのだ。
バイリンガル教育をする両親も、言葉の使い方には細心の注意を払うという。正しくない日本語を話せばこどもはそれを覚えてしまうし、中途半端に日本語と英語を混ぜた話し方をすれば、こどもの言語能力も中途半端になってしまう。バイリンガル教育とは親と子の信頼関係のもと、双方の想像を絶する努力と辛抱が為せる技なのである。
もうすべてに脱帽、と思った。
旅行雑誌、情報誌のフリー編集者兼ライター・フォトグラファー。人種や文化の違いに興味があり、世界中の国々を旅行しては、その地で見た美しい風景や人々、おもしろいと感じたものを写真に収める。世界遺産検定1級所持。
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