愛すべきコロラド Vol.2

愛すべきコロラド Vol.2

今度は州の南へ向かう。コロラドスプリングスは、デンバーに次ぐ第2の都市だ。アメリカの空軍、エアフォースの士官学校があったり、山間を走る鉄道やアウトドアで登頂を楽しめる高山パイクスピークがあったりと、楽しみが尽きない。

 

 

特に人気が高いのが、「ガーデン・オブ・ザ・ゴッズ(Garden of the Gods)」と呼ばれる自然公園。長い年月をかけて積み重なった地層が隆起や浸食で押し上げられ、削られて現在のような不思議な造形美が見られるようになった。赤い岩山がそびえ、異世界のような雰囲気を醸すその光景から「神々の庭」という意味の名称がつけられたのだろう。

ここでは、暖かい季節になるとバッファローが山から降りてくるという。バッファローはコロラド州でよく見られる動物だ。そのほかにも野生動物や固有種の植物が生息しており、その大自然をハイキングやセグウェイ、ジープなどで楽しめる。赤く燃えるような山々の背後にはパイクスピークも見える。

大自然に恵まれたコロラドには湧き水も多い。各地名に“スプリングス”という名がついたところが多いことからも分かるように、実はコロラド州は温泉大国だ。古来、アメリカの先住民が暮らしていたこの地では、先住民にとって温泉は治癒の役割を果たす重要な場所であったと考えられている。コロラドロッキーから湧き出た泉にはミネラルが豊富に含まれており、体にも良いこと間違いなし。

 

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今回の旅では、パゴサスプリングスを訪れた。パゴサは先住民ユート族の言葉で「ヒーリング・ウォーター」を意味するらしい。ここにはギネスに登録されている世界一深い温泉がある。その深さは300メートル以上あるそうだ。

パゴサスプリングスには温泉施設が何件かある。日本のように裸で入るわけではなく、水着を着る必要があるが、それでもあの温泉独特の匂いを嗅ぐと底抜けに安心感を得られるのは、温泉の魅力だろう。ここの湯は青みがかった白いにごり湯。湯船に浸かると身も心も浄化されるような気分になる。この感覚をアメリカでも味わえるというのは嬉しいものだ。

さて、温泉で体力を回復したら西へと向かい、世界文化遺産のメサ・ヴェルデ国立公園へ。ここは世界で初めて遺産登録された12の遺産のうちの一つ。世界で認められた、歴史ある遺産だ。公園内には今から800〜1400年前、アメリカ先住民の古代プエブロ族が集落を築いて生活していた住居跡が残っている。

この遺跡の驚くべきところは集落の立地だ。彼らが暮らした集合住宅は、断崖の中腹にある窪みに収まるようにうまく築かれている。敵からの襲撃を防ぐためなのか、はたまた宗教的な意味合いがあるのか、その理由についてはさまざまに推測されているが、本当の理由は明らかになっていないという。

その集落を実際に目にすると、まるで巨人が泥遊びで作り上げた砂のお城のよう。これが、アメリカとは思えない、異国情緒が漂うなんともエキゾチックな雰囲気なのだ。ただ原野を歩いているだけでは見つからない。集落の位置する断崖と向かい合う反対側の崖に立った時、突如その全容が現れる。集落の周りには、ただただありのままの自然が広がるだけだ。なぜ、どうやってこのような場所に生活の礎を築いたのかと、見れば見るほど不思議な感覚になる。

特筆すべきは、彼らの生活の知恵だ。集落の家々には生活を快適にする仕組みがそこかしこに見られる。空気循環を考えた屋内の仕切りの配置、今の時代で言うところのコンドミニアムに当たる高層ビル、宗教的な意味合いを含んだ家具の位置関係。すべてに生きるための工夫が施されたその集落は、この時代が現代の暮らしに繋がっているのだと、当たり前のようで実感のない事実を見せてくれたような気がした。